人工妊娠中絶手術の基礎知識
人工妊娠中絶手術の基礎知識
人工妊娠中絶とは、妊娠を人工的に中断する医療行為です。日本では母体保護法に基づき、都道府県医師会が指定する母体保護法指定医師が人工妊娠中絶を行います。
日本で人工妊娠中絶を行うことができる時期は、原則として妊娠22週未満です。妊娠週数によって行われる方法や身体への負担が異なり、一般的に妊娠12週未満を「初期中絶」、妊娠12週以降22週未満を「中期中絶」と呼びます。
人工妊娠中絶を検討する背景は一人ひとり異なります。当院では、患者様それぞれの事情やお気持ちを尊重しながら、妊娠週数やお身体の状態を確認し、手術方法や注意点についてご説明しています。
母体保護法では、妊娠の継続または分娩が身体的・経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合や、暴行・脅迫などによって妊娠した場合について、母体保護法指定医師が人工妊娠中絶を行うことが定められています。
原則として本人および配偶者の同意が必要とされていますが、配偶者が不明の場合、意思を表示できない場合、妊娠後に配偶者が亡くなった場合などは、本人の同意のみで足りるとされています。個別の状況については医師へご相談ください。
当院では妊娠12週未満の初期中絶に対応しており、手術方法にはMVA(手動真空吸引法)を採用しています。
日本の人工妊娠中絶件数は、長期的には大きく減少しています。
1990年代には年間30万~40万件台でしたが、2020年代には年間12万~14万件程度となっています。
一方、直近では減少一辺倒ではありません。
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、2024年度の人工妊娠中絶件数は127,992件で、2023年度の126,734件から1,258件(1.0%)増加しました。
| 年度 | 中絶件数 | 実施率 (女子人口1,000人対) |
|---|---|---|
| 2020年度 | 141,433件 | 5.8 |
| 2021年度 | 126,174件 | 5.1 |
| 2022年度 | 122,725件 | 5.1 |
| 2023年度 | 126,734件 | 5.3 |
| 2024年度 | 127,992件 | 5.5 |
2024年度の年齢階級別の実施率では、20~24歳が11.1と最も高く、次いで25~29歳が9.1となっています。
人工妊娠中絶件数の長期的な減少には、妊娠可能年齢の女性人口の減少、出生数の減少、避妊に関する知識や避妊方法の普及など、複数の社会的要因が関係していると考えられます。
※人工妊娠中絶件数・実施率は、厚生労働省「令和6(2024)年度 衛生行政報告例」を参照しています。
人工妊娠中絶には、主にMVA(手動真空吸引法)、EVA(電動真空吸引法)、掻爬法(D&C)、中絶薬による方法があります。
それぞれ子宮内容物を取り除く方法や、対象となる妊娠週数が異なります。まずは4つの方法の違いを簡単に比較します。
| 中絶方法 | 方法 | 対象の目安 |
|---|---|---|
|
MVA法 手動真空吸引法 ※当院採用 |
手動式の吸引器で吸引 |
妊娠初期 当院では12週未満 |
|
EVA法 電動真空吸引法 |
電動ポンプで吸引 | 妊娠初期 |
|
掻爬法 D&C |
鉗子やキュレットなどの器具で除去 | 妊娠初期 |
|
中絶薬 メフィーゴ®パック |
薬剤によって排出 | 妊娠9週0日以下 |
それぞれの方法には特徴や注意点があり、適した方法は妊娠週数やお身体の状態などによって異なります。
当院では妊娠12週未満の初期中絶にMVA(手動真空吸引法)を採用しています。
MVA(Manual Vacuum Aspiration:手動真空吸引法)は、手動式の吸引器とカニューレを使用し、陰圧によって子宮内容物を吸引する方法です。
WHO(世界保健機関)は、妊娠14週未満の外科的中絶について真空吸引法(vacuum aspiration)を推奨しています。
MVAとEVAはいずれも真空吸引法に分類されます。
ただし、MVAであっても出血、感染、妊娠組織の遺残、子宮損傷、子宮穿孔などのリスクが完全になくなるわけではありません。
当院では妊娠週数や子宮の状態を確認したうえで手術を行っています。
MVAとEVAはいずれも、吸引によって子宮内容物を取り除く真空吸引法です。
大きな違いは、吸引圧を作る方法にあります。
| 比較項目 | MVA | EVA |
|---|---|---|
| 日本語名 | 手動真空吸引法 | 電動真空吸引法 |
| 吸引方法 | 手動式の吸引器 | 電動ポンプ |
| 吸引圧 | 術者が手元で調整 | 電動ポンプによって吸引 |
| WHOの分類 | 真空吸引法 | 真空吸引法 |
MVAとEVAはどちらもWHOが推奨する真空吸引法に含まれるため、「MVAだから必ず安全」「EVAだから危険」という単純な優劣ではありません。
当院では、柔らかい使い捨てのプラスチック製カニューレを使用でき、術者が手元で吸引圧を調整しながら処置できることなどからMVAを採用しています。
MVAと掻爬法では、子宮内容物を取り除く方法が異なります。
MVAはカニューレを使用して子宮内容物を吸引する方法です。
一方、掻爬法(D&C)はキュレットなどの器具を使用して子宮内容物を取り除きます。
WHOは、妊娠14週未満の外科的中絶には真空吸引法を推奨しており、鋭匙を使用するD&Cを行うことは推奨していません。WHOが示す根拠では、観察研究において真空吸引法はD&Cより合併症が少ない傾向が示されています。
当院ではこれらも踏まえ、妊娠12週未満の初期中絶にMVAを採用しています。
日本では2023年4月に、国内初の経口中絶薬として「メフィーゴ®パック」が承認されました。
メフィーゴ®パックは、ミフェプリストンとミソプロストールという2種類の薬剤を順番に使用し、子宮収縮を起こして妊娠組織を排出させる方法です。
日本でメフィーゴ®パックを使用できるのは、超音波検査などによって子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の方です。
母体保護法指定医師の管理のもとで使用する必要があり、薬局やインターネットで購入して自己判断で使用できる薬ではありません。
中絶薬は、「薬を飲んでそのまま自宅で待つだけ」の治療ではありません。
日本では、安全に使用するための管理体制が定められています。
メフィーゴ®パックは、原則として入院可能な有床施設(病院または有床診療所)で使用されます。
また、患者様の居住地や医療機関との距離などの条件によっては、2剤目のミソプロストール使用後、胎嚢が排出されるまで入院または院内待機が必要になります。
自宅で経過観察できる場合にも一定の条件があり、すべての方が服用後すぐに帰宅できるわけではありません。
そのため、中絶薬は「手術をしないから短時間で簡単に終わる方法」とは限らず、医療機関での待機や入院、再診を含めて予定を調整する必要があります。
MVAでは手術によって子宮内容物を吸引しますが、中絶薬では薬剤によって子宮収縮を起こし、妊娠組織が排出されるのを待ちます。
そのため、2剤目を使用してから比較的早く排出される方もいれば、排出まで時間を要する方もいます。
排出までの間は腹痛や出血が続く可能性があるため、仕事や外出などの予定を調整する必要があります。
国内第III相試験では、ミソプロストール投与後24時間以内に人工妊娠中絶が成功した割合は93.3%(112/120例)でした。
そのため、すべての方が薬剤だけで中絶を完了できるわけではありません。
胎嚢が排出されない場合や、妊娠組織が子宮内に残った場合には、追加の薬剤投与や吸引などの処置が必要になることがあります。
| 比較項目 | MVA | 中絶薬 |
|---|---|---|
| 方法 | 吸引によって子宮内容物を除去 | 薬剤で子宮収縮を起こして排出 |
| 対象 | 当院では妊娠12週未満 | 妊娠9週0日以下 |
| 時間 | 当院では手術自体は約10~15分 | 1剤目から2剤目まで36~48時間。その後、排出までさらに時間を要する場合あり |
| 入院・待機 | 当院では日帰り | 条件によって入院または院内待機が必要 |
| 完了まで | 手術によって子宮内容物を吸引 | 排出のタイミングには個人差あり |
| 追加処置 | 遺残などがあれば追加処置の可能性あり | 薬剤で完了しない場合は吸引などが必要になる場合あり |
中絶薬には、手術器具を子宮内に挿入しないという特徴があります。
一方で、排出までに時間を要すること、腹痛や出血を伴うこと、条件によって入院・院内待機が必要になること、薬剤だけで完了せず追加処置が必要になる場合があることなども理解しておく必要があります。
当院では現在、中絶薬による人工妊娠中絶は行っておらず、妊娠12週未満の初期中絶にはMVA(手動真空吸引法)を採用しています。
妊娠12週を超えると、胎児や胎盤が大きくなるため、妊娠初期に行われるMVAやEVAなどの方法とは異なる対応が必要になります。
日本では、妊娠12週以降22週未満の人工妊娠中絶は一般的に「中期中絶」と呼ばれます。
中期中絶では、薬剤を使用して人工的に子宮収縮や陣痛を起こし、分娩に近い方法で胎児・胎盤を排出する方法が行われます。
妊娠初期に行われる中絶手術と比較すると、排出までに時間がかかり、入院が必要となることが多くなります。
また、陣痛に伴う痛みや出血など、身体への負担も大きくなる傾向があります。
妊娠12週以降の人工妊娠中絶では、死産届の提出など、妊娠初期の中絶とは異なる手続きが必要になります。
人工妊娠中絶を検討している場合には、まず早めに産婦人科を受診し、超音波検査などによって正確な妊娠週数を確認することが重要です。
妊娠週数によって選択できる方法や身体への負担が大きく異なるため、妊娠している可能性があり、中絶について検討している場合は早めにご相談ください。
当院では妊娠12週未満の初期中絶に対応しています。
人工妊娠中絶手術は比較的短時間で行われる手術ですが、麻酔や子宮内の処置を伴うため、リスクがまったくないわけではありません。
以下は、中絶手術に伴う主なリスクや合併症です。
術後に多量の出血、強い腹痛、高熱、悪臭のあるおりものなどがみられる場合には、速やかに医療機関へご相談ください。
シュシュレディースクリニック戸田公園では、2023年の開院以降、妊娠12週未満の初期中絶手術を行っています。
| 年 | 中絶手術件数 |
|---|---|
| 2023年 | 221件 |
| 2024年 | 364件 |
| 2025年 | 388件 |
| 2026年 | 362件(10月現在) |
| 累計 | 1,335件 |
2024年・2025年は年間300~400件の中絶手術を行っています。
2023年の開院から2026年10月現在までに当院で実施した人工妊娠中絶手術1,335件について、当院の診療記録上、子宮穿孔・麻酔事故はいずれも0件です。
※2023年の開院以降、当院で実施した中絶手術のみを集計しています。開院前の医師個人の手術経験や、中絶以外の手術は含みません。
当院では、産婦人科専門医・母体保護法指定医師が診察および人工妊娠中絶手術を行っています。
大学病院や周産期医療センター、婦人科クリニックでの診療経験をもとに、妊娠週数や患者様のお身体の状態を確認しながら、手術方法やリスクについてご説明しています。
日本では原則として妊娠22週未満まで人工妊娠中絶が可能です。ただし、妊娠週数によって方法が大きく異なります。当院では妊娠12週未満の初期中絶に対応しています。
MVAはManual Vacuum Aspirationの略で、日本語では手動真空吸引法と呼ばれます。手動式の吸引器とカニューレを使用して子宮内容物を吸引する方法です。
MVAとEVAはいずれもWHOが推奨する真空吸引法に含まれます。単純に一方が必ず安全とはいえず、使用する器具、術者の技術、妊娠週数、患者様の状態などによって異なります。当院では柔らかい使い捨てカニューレを使用でき、手動で吸引圧を調整できるMVAを採用しています。
中絶薬で子宮内容物が完全に排出されれば外科的処置を行わずに終了します。ただし、完全に排出されない場合や多量の出血などがみられた場合には、吸引などの追加処置が必要になる場合があります。
合併症なく経過した人工妊娠中絶によって、必ず将来妊娠できなくなるわけではありません。ただし、重い感染症や子宮損傷、子宮内癒着などの合併症が生じた場合には、将来の妊娠に影響する可能性があります。
妊娠12週以降22週未満は中期中絶となり、一般的には薬剤によって陣痛を起こして分娩に近い方法で胎児・胎盤を排出します。初期中絶より身体への負担が大きく、入院が必要になる場合があります。