
人工妊娠中絶手術の基礎知識
人工妊娠中絶手術の基礎知識
日本における人工妊娠中絶手術は、母体保護法第14条に基づき行われます。この法律により、妊婦が妊娠を中断する際に一定の条件を満たす場合に手術が認められています。
これらの条件に基づき、妊娠中絶が行われる場合には、妊婦本人と配偶者(既婚の場合)の同意が必要です。
日本の中絶件数は、近年減少傾向にあります。厚生労働省の統計によると1990年代初頭には年間約45万件、実施率37.4‰と高水準でしたが、以降緩やかに減少傾向。2000年前後に若干の反転(小幅な上昇)を示した後、2005年以降は急減。2010年代では約20万件だった中絶件数が、2020年代には約12万件〜14万件程度にまで落ち込んでいます。
妊娠した女性人口の減少(少子化の進展)や避妊知識の向上と避妊用品の普及により、意図しない妊娠そのものが減少したとされています。中でも、1980年代後半以降に避妊の普及、特にピルなどの利用拡大が意図的な妊娠の回避に寄与したと分析されています。法制度面では、1996年に母体保護法への改正が行われ、社会的背景にも配慮した内容となっています。
年度 | 中絶件数 | 実施率(‰) | 出生数 |
---|---|---|---|
1990 | 約456,800 | 37.4 | 約1,221,600 |
1995 | 約343,000 | 28.9 | 約1,187,100 |
2000 | 約341,200 | 28.7 | 約1,190,500 |
2005 | 約289,100 | 27.2 | 約1,062,500 |
2010 | 約212,700 | 19.9 | 約1,071,300 |
2015 | 約176,400 | 17.5 | 約1,005,700 |
2019 | 約156,400 | 18.0 | 約865,239 |
2020 | 約141,400 | 16.8 | 約840,832 |
2021 | 約126,200 | 15.5 | 約811,604 |
2022 | 約122,700 | 15.9 | 約770,747 |
2023 | 約126,700 | 17.4 | 約727,288 |
上記のデータは、厚生労働省「衛生行政報告例」を参照しています
中絶方法 | 特徴 | 手術時間 | 適応妊娠週数 | リスク/副作用 | メリット/デメリット |
---|---|---|---|---|---|
MVA法(手動真空吸引法) ※当院の術式 |
最も安全性が高い手法。 手法使い捨ての手動式吸引器具を 使用するため、清潔で繊細な操作が可能。 金属でなく柔らかいプラスチック製なので 安全性が高い※WHO(世界保健機関)推奨 |
約15分 | 妊娠6~12週まで | 出血、 ごく稀に感染症、子宮内膜損傷 |
吸引圧を手動で調整可能で精度が高く、回復が早い。 |
EVA法(電動吸引法) ※一般的な術式 |
金属製の電動吸引装置を使う。 掻把法よりも安全性が高いが、自動吸引式で繊細な操作が難しい。 使いまわしの器具を使用するため 徹底した衛生管理と手術技術が求められる。 |
約15分 | 妊娠6~12週まで | 出血、感染症、 子宮内膜損傷、稀に子宮穿孔 |
手術時間が短く、吸引圧が安定しているため、 精度が高く迅速に手術が可能。患者の負担が軽減される。 |
掻爬法(D&C法) ※昔ながらの術式 |
スプーン状の器具や鉗子で胎児や胎盤などを掻き出す手術。 吸引法よりも手術時間が長く、出血量も多い傾向あり。 |
約15~30分 | 妊娠6~12週まで | 出血が多い、感染症、 子宮損傷、 精神的負担が大きく 痛みが伴うことが多い |
医師の手による繊細な操作が可能だが、 損傷のリスクや母体への影響が 他の手法よりも高まるため、推奨されない手法である |
中絶薬(薬剤による中絶) | ミフェプリストンとミソプロストールの2つの薬剤経口薬を 服用し子宮収縮を促進させて妊娠を中断。 5~7%前後の確率で中絶が失敗する恐れあり。 大量出血の可能性があり、自己判断での服用は禁止。 |
2~3日 | 妊娠9週まで | 吐き気、出血、腹痛、 頭痛、疲労感、 稀に手術が必要になる場合 |
適切な方法で使用れば、身体への負担が少なく回復が早い。 |
妊娠12週を超えると、胎児や胎盤のサイズが大きくなり、掻把法、手動吸引法(MVA法)や電動吸引法(EVA法)でも十分に子宮内容の排出ができなくなります。そのため、12週を過ぎた妊娠では、分娩という形式での中絶法を取らざるをえなくなります。すなわち、お薬を使って人工的に陣痛を起こして分娩を図るため、胎児胎盤の排出まで時間がかかるので入院になることが多いです。陣痛を経験することになりますので、排出までの痛みを伴いますし、分娩後は母乳が出てしまったりするなど、母体への負担がさらに増すことになります。
人工妊娠中絶手術は短時間の手術ですが、麻酔を使用した手術である以上リスクを伴います。以下は中絶手術に伴う主なリスクです。